ブラチスラバ絵本原画展で購入した絵本シリーズ③
「うみどりの島」(寺沢孝毅・文 あべ弘士・絵 2019年4月初版第1刷 偕成社)
とても美しい絵本である。面出しされた表紙が目に飛び込んでくる。「あ、あべ弘士の絵ではないか?!」と思い手に取るとやはりそうだ。裏表紙も広げて見る。帯の部分に隠れた絵も見る。魅力ある動物の絵を描く作家はもちろんたくさんおられるが、必ずしも写実的ではないにしても嘘がなく、細かい描写、そして、なんとも魅力的な躍動する姿、表情を描かせたらぴか一だと個人的には感じている。それは、やはり実際に動物たちに関わってこられた元旭山動物園の飼育員ということはあるが、根底に動物たちを愛し、リスペクトされていることが大きいのではないだろうか。本書では、様々なうみどりたちの生態や魅力が余すところなく見事に描かれている。舞台は北海道の日本海北部に浮かぶ天売島。帯文を引用してみよう。―日本にこんな島があったのか!300人がくらす小さな島に、100万羽の海鳥がやってくるー
冒頭で述べた“美しい絵本”についてである。空の色、海の色、そして、様々な海鳥たちの色、天売島の様子、限られた紙面の中でいかに海鳥たちを躍動させるのかは、素人考えながらとても難しいのではないかと思う。しかし、色合い、遠近法、まさしく鳥瞰図、これらを駆使した構図が、“美しい絵本”を作り上げているのだと感じる。
そして、寺沢孝毅の文にも注目しなければならないだろう。3月の天売島の様子から季節が進んでいく中で、様々な海鳥が登場する。それぞれの海鳥の生態が天売島の自然やくらしとの関わりと共に紹介されており、まさに帯文通り、「日本にこんな島があったのか!」と感じさせられるのである。忘れてはならないのは、見返しに8種類もの天売島の海鳥がイラストと共に紹介されている。裏の見返しには、海鳥だけでなく天売島の海に生きる様々な生き物が登場する。寺沢孝毅は、北海道で生まれ育ち、天売小学校で教員を務めた後、自然写真家として活動し、また、絶滅危惧種の保護活動などにも精力的に関わっているとのことだ。そんな彼だからこそかけたのが本書の文章である。
2人のプロフェッショナルが、それぞれの分野で見事にコラボレーションした珠玉の1冊であろう。