ーきっと、人はいつも、それぞれの光を捜し求める長い旅の途上なのだー
星野道夫が遺した言葉の中で、私にとってもっとも印象的かつ好きな言葉である。
渇いた心に心地よく染み渡るような数々の美しい言葉を遺した星野道夫。また、息遣いが聴こえてくるような動物たち、息を飲むような景色の美しさ、言葉を無くすまでの圧倒的なスケール、あるいは見落としてしまいそうになる足元の小さな草花まで、数多くの写真が物語る世界に惹き込まれた人は多いだろう。では、何故、これほどまでに人々は星野道夫の言葉や写真に魅力を感じるのか。このことを丁寧に分かりやすく、そして納得のいくように教えてくれるのが本書である。
著者の濁川孝志氏は、立教大学教授であり、研究領域は、トランスパーソナル心理学、心身ウェルネス、自然とスピリチュアリティである。この専門分野を礎として星野道夫の言葉について分析を進めており、特に星野道夫の霊性(スピリチュアリティ)について解説されている。解説というと少し堅苦しく感じるが、まずは、著書自身が星野道夫をリスペクトしていることが伝わってくる。読み進めていくと、星野道夫に変わって、いや、星野道夫の文章を紐解きながら現代人が大切にすべき共生への眼差しについて語られ、そして、先に触れた霊性(スピリチュアリティ)を説いている。この霊性(スピリチュアリティ)を分析すると、以下の六要素が浮かび上がると述べている。それは、「万物の繋がり」「自然との調和」「古い知恵の継承」「輪廻」「年長者への敬意」「目に見えない存在」である。この解説に、星野道夫の言葉に惹き込まれてきた人々は納得するだろう。簡単に言えば、「そうか、そういうことだったのか。」という感覚だ。最後には自身のアラスカへの旅についても綴られている。
本書にも述べられているが、おそらく本書を手に取った人は、既に星野道夫のことを知っており、いや知っているだけでなく。その魅力に憑りつかれている人が多いだろう。しかし、本書を読むのが先で、星野道夫に興味をもって星野道夫の著書に手を伸ばすのも大いに結構だと思う。
最後にもうひとつ星野道夫の言葉を綴っておこう。どう受け取るかはそれぞれに委ねられていいはずだ。
ー大切なのは、出発することだったー