とうとうコンクールに応募した。となると、当面は“待つ”しかない。他にも絵本にしたい話やアイデアはある。しかし、この状況で次の創作へと気持ちが向かわないのが正直なところだ。そして、ある日のことだ。文芸社からの封書。コンクールの結果だ。期待はするもののそんなに甘くないことくらい分かっている。そう簡単に入賞はしない。ただ、気になったのは、絵本に対する講評が書かれていた。良い事だけ書いて、闇雲に褒めてあるだけなら、自費出版への勧誘が目的なのだろうと訝しがりたくもなるが、良かったところと足りなかったところ、課題等が納得できる形で書いてあったのだ。自分が創作した初めての絵本に対する正当な評価を得られたことが嬉しかった。「自費出版」というと、言葉巧みに誘われてとか、中には騙されたとか、辛辣な情報も確かに・・・ある。
その後、担当者と話をすることとなり、良い話、厳しい話をいろいろ聞き、自分なりにもリサーチしていく中で、やはり「おじいちゃんのイカ」を絵本という形にしたいという思いが強くなっていったのだ。とは言え、現実的に費用はかかる。ただ、助成金を申請して通れば40万円助成してもらえる。これは大きい。が、まだ足りない。家族会議。少々突っ走り気味なのは自覚もしていたが、やっぱりこのチャンスを生かしたい。この時点では、次作まで考えていなかったので、ある意味一生に一度の記念的な意味合いを感じていたのだ。そこでひとつの大きな決断をした。この時から遡ること約9年前。欲しくて欲しくてたまらなかったバイク。この時も思いの丈を伝えてとうとう買うことに同意を得た。ちょうどそのタイミングである論文で特別賞を受賞し、研究助成金20万円を得た。実は、それをバイク購入の頭金に充てたのだった。今、思い出した。そう考えると、好きなことをさせてもらっているのだなあ。そう、この愛車を手放す!そう売る!ことにしたのだ。本気さがわかってもらえるだろうか。
かくして、話は進み、編集者とのやりとりが始まった。これが、なかなか勉強にもなり刺激的で面白いものだったのだ。文章を書くことは嫌いではなかったし、苦手意識もそんなになかった。どちらかと言えば、得意とまで言うと語弊があるかもしれないがわりと好きだった。しかし、プロの編集者の視点からの提案や指摘は本当に勉強になった。こうして、絵本というものが形作られていくことを実感できたことは、大変僥倖なことだと思う。続く。